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【最終回】第10回:患者中心のRWDマスター


 本連載は、製薬企業ではたらく方々に、「リアルワールドデータ(RWD)」とは何たるか?を易しく学んでいただき、データドリブンな業務プロセスを実現し、そして臨床現場や患者の目線に立つことの重要性をご理解いただくことを目的としています。ひととおりお読みいただくなかで、読者の皆さんの理解や思考が少しでも整理され、明日からの業務が変化していく一助となれば幸いです。


 さて、長きにわたりお付き合いいただいた当連載、本稿が最終回となります!ご愛読くださった皆さん、誠にありがとうございました。タイトルのとおり、まずは過去の連載内容から重要なポイントをまとめ、知識定着に役立てていただこうと思います。あわせて「RWD活用はあくまでも手段。診療や患者のリアルを把握することが目的である。」という見地に立ち、さらに学びたい皆さん、患者中心のRWDマスターを目指す皆さんへのガイドを、少しばかりご紹介させていただきます。



おさらいとメッセージ


 RWDの定義に触れた第1回では、製薬企業のオペレーションや分析に関連する情報源として、レセプト・EMR(Electronic Medical Record)・患者レジストリ・臨床検査値・特定健診を例示。それぞれの活用場面を整理しました。そして、RWDが“リアル”であるという点に着目、「リアルではない情報とは何なのか?」という問いを立て、臨床試験の情報と比べたRWDの価値をご理解いただきました。厳密に設計された臨床試験の環境と、さまざまな背景の生活者が入り乱れる自由環境とでは、得られる情報も意味も異なります。ゆえに、相互に補完しながら結果を解釈することが重要ですね。

 レセプトやら電子カルテやら、名前は聞いたことがあるものの、実際どのような情報源なのかよくわからない!という方のために、各データがどのようにして生成するのか、分析に活かせる点と活かしにくい点はどこなのか、を説明したのが第2回です。診療報酬の請求が目的であったり、病態の精緻な記録が目的であったり、多くの情報源が分析を主目的としたものではないため「何を見たいか次第、それぞれ一長一短、最適な情報源を選択することが重要」というメッセージをお伝えしました。


 RWDマスターへの道のりを歩むうえで避けて通れないのが、個人情報の取り扱い。こちら第3回でお話しした内容です。日本全体でみれば「個人情報保護法の一本化(シンプル化)」や「規制の緩和(情報の更なる流動化)」といった方向に動いている、という理解で良いでしょう。一方、「仮名加工情報」のように新しい区分が新設されるなど、日々刻刻と変化するルールを日常業務の傍らでキャッチアップし続けるのは、容易なことではありません。したがって、RWDを活用する際には、法務担当者や各種データベンダーの専門的な理解を助けとしつつ、信頼できる取引先・パートナーを巻き込むことをお勧めしました。


 RWDの基礎を理解したところで「明日からの業務に活かせるか?」といえば、そうではありません。そこで、第4回から第9回にかけては、実践編と題して、具体的なRWD分析手法をいくつかご紹介しました。当社が多くの製薬企業をご支援する際に提供・活用している情報源「レセプトデータ」を用いた事例を、メディカル・臨床開発・創薬研究・営業マーケティング、と部署別のイメージでご紹介しました。これら決して各部署に限った手法ではありませんので、読み逃した方がいれば、ぜひ遡っていただけますと幸いです。


 そのなかでも、多くの部署で共通項といえるのが「RWDを用いた患者動線の理解(Patient Journey分析)」ではないでしょうか。臨床と距離のあるオフィスやラボで働く製薬企業の皆さんにとって「診療現場の医師や患者は何に困っているのか?」、「どのような薬剤がどのような患者にどのようなタイミングで使われているのか?」を精緻に答えるのは難しいですね。自分自身が罹患したことのある疾患ならまだしも、希少疾患、難病、限定的な適応症などとなれば、机上の推論を出ず頭を抱えがちかと思います。

 もちろん、医師や患者に直接訊く(アンケートやインタビューする)のも有効かつ必要なアプローチといえます。しかし、それだけでは定性的な描写にとどまることも多く、なかなかマスを捉えた分析にはなりにくいでしょう。RWDのメリットは「リアル」なだけではなく、ときに「ビッグ」であることです。レセプトや健診値を交えた画を、定性的に・定量的に描き、部署横断的なナレッジとして共有化しましょう。臨床の実態を追体験しながら “自分ごと” のように戦略立案や施策検証までを行える、そのような環境が整えば、皆さんの日常業務も “患者中心”の世界に大きくシフトすること間違いなしです【図表1】


もっとRWDを学びたい!


 医療RWDは多様で奥が深く、活用も蓄積もまだまだ途上。この連載だけで語り尽くせるものではありません。よって皆さんには、最新トピックを含めて継続的に学びながら、扱い慣れていただければと思います。「とはいえ、忙しい業務のなか、どのあたりから手を付ければ良いものか…」というお声をよく伺いますので、悩める皆さんに “とっつきやすそうな” 情報源をいくつかご紹介します。

 まずは書籍。シンプルに検索すれば出てくるわけですが、意外と少ないものです。そして、数が少ないだけでなく、研究色が強いことも特徴的でしょう(その意味では、研究以外の目的におけるRWD活用は、当連載が良いガイドになるはず?と自負しております)。研究やら統計やら、専門的な領域になるとますます尻込みしがちですが、東大の康永先生による「超入門! スラスラわかるリアルワールドデータで臨床研究」や京都大学の佐藤先生らによる「これからの薬剤疫学 ーリアルワールドデータからエビデンスを創るー」などは、初学者、非研究者にとっても比較的やさしい内容ではないかと思います【図表2】

 なお、書籍という形態ではありませんが、製薬業界や各種機関が公開している調査結果やホワイトペーパーも参考になりますね。当連載の過去号でも、製薬協ワーキンググループの調査報告書を引用しながら書かせていただきました。また、最新の日本の情勢をひとつかみにできるものとしては、直近2022年5月25日にリリースされた日本医療政策機構(HGPI)の報告書(1)があります。行政・アカデミア・民間企業から、日本のRWDに関わるキーパーソンが集まっておこなわれたラウンドテーブルの内容です。ハイレベルな視点につき抽象的ですが、国の今後を理解するには良い素材となるでしょう。


 次にWeb上の情報源です。RWDという言葉が比較的浸透してきた証拠といえるのか、各種データベンダーのサイトをはじめ、書籍以上に豊富で多様な学習コンテンツがゴロゴロと転がっています。手前味噌ではありますが、当社のWebサイトにもぜひ一度アクセスしてみてください【図表3】

 各種DBの詳細や特徴はもちろんのこと、初学者向けのコラムや具体的な活用事例まで掲載しています。データを提供しているからこそ語れる内容も多分に含まれており、教科書的なインプットだけでなく、まさに「RWDのリアル」を知っていただけるのではないかと思います。

 Web上の情報といえば、講座や講義のような形式で腰を据えて学びたい、という方も一定数いらっしゃるでしょう。コロナ禍で “Webinar”もすっかり定着しましたね。データベンダーのメルマガに登録しておくだけで、RWDに関する講演情報が座しても届くようになります。そこで「データベースは一長一短、使い分けが重要」という話に通ずることですが、複数のデータベンダーから多角的な視点でインプットを受けることは重要です。同じようなデータベースでも、まったく別の語り口で説明を受けることによって、そのデータベースを活用するうえでの留意点や勘所を網羅的に理解できるからです。


 ヘルスケア業界におけるデータサイエンスやRWD活用に特化したサポートコンテンツとしては、ヘルスケア・データサイエンス研究所(RIHDS:Research Institute of Healthcare Data Science)のオンデマンド講座もハイクオリティでおすすめです【図表4】。Youtube動画もしかり“目で見て学ぶ” ことは有意義ですね。データのように、概念や文字面だけでは理解が追い付かないような素材を扱う場合、その意義はより大きいものと考えます。アカデミアの先生方が、データベース研究や人材育成の視点から、事例を交えつつ、わかりやすい講義を提供されています。さっそくアクセスしてみましょう。


あとがき


 あらためまして「今さらきけないリアルワールドデータ入門」をご愛読いただいた皆さん、ありがとうございました。連載を企画した当時、今さらきけない、というタイトルを付けましたが、連載完了を迎えて思うのは「今でも遅くない」の方が正解だったかな、ということです。

 平素、私たちが製薬企業各社をご支援しているなかで、今もなお、売上データや「目に見える患者」の世界観でお仕事をされているケースを非常に多く目にします。アンメットメディカルニーズの解決を製薬業界のミッションとするならば「目に見えない患者」、「売上ではわからない有機的な困りごと」をしっかりと捉えることが何より大切であると考えます。薬剤にアクセスできていない患者の動きを把握したり、患者自身が発するアウトカム(PHRやPRO)を起点に問題を定義したりと、まだまだ患者中心の日常業務を追求する余地は大きいのではないでしょうか。


 かくいう著者(私自身)も、現職に携わる前と後で、大きく目の付けどころが変わったことを自覚しています。もちろん、変わることが一朝一夕ではないことも自覚しています。読者の皆さんがまだ知らないことを知っているかもしれない。業務に取り入れたいけど採り入れかたが分からないのかもしれない。そんな想いから筆を執り始めた当連載が、RWD活用に挑まんとする皆さんにとって良い一歩目になることを願いつつ、結びの言葉とさせていただきます。ご相談・ご要望があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

[参考資料]

(1) 日本医療政策機構 : 日本の保健医療研究データの現状~世界に誇る医療データベースの今後, 2022



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