①リアルワールドデータ(Real World Data)とは
医療ビッグデータの全体像
リアルワールドデータの概要
リアルワールドデータ(RWD) とは、さまざまなソースから日常的に収集された、患者の健康状態および医療の提供に関連するデータの総称です。代表的な例としては、診療報酬明細であるレセプトデータ(更に調剤、医療機関、保険者由来に分かれます)、電子カルテデータ、DPCデータ、健診データ、患者レジストリ、ウェアラブルデバイスから得られるデータ(PHR)、PRO(Patient Reported Outcome)などがあります。
リアルワールドデータ以外の医療データとは、予め目的を決めて前向きに取得されたデータを指します。従来医療の世界では、医薬品についての研究開発などを中心に、目的を決めて前向きにデータを収集することが殆どでした。
リアルワールドデータ以外の医療データには、製薬企業の治験などで活用される、“ランダム化比較試験” (RCT:Randomized Controlled Trial)と呼ばれる試験のデータなどが挙げられます。
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近年、医療を取り巻くIT技術の進展により、大量のリアルワールドデータを取得・解析できるようになってきたことから、リアルワールドデータの利活用が進んできました。また、これに伴い個人情報保護法や次世代医療基盤法などの関連する法律の整備も進み、利活用を行いやすい環境も整ってきています。
リアルワールドデータを収集している主体としては、民間企業と公的機関があります。公的機関のデータ(NDB、MID-NET)はデータ量が多い一方、活用できる情報の粒度に制限があったり、実際に活用する際の手続きが煩雑だったりと様々な制約も存在しており、信頼性の高い民間企業を活用するケースも増えています。民間企業、公的機関を問わず、提供されるリアルワールドデータは全て匿名化されており、個人のプライバシーを保護しながらデータの利活用が行われています。
ランダム化比較試験(RCT)は、無作為化試験とも呼ばれ、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法です。例えば、新薬を投与する患者さんとプラセボと呼ばれる偽薬を投与される患者さんをランダムに決め、治療の効果を検証する試験のことを指します。ランダム化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます。
※リアルワールドエビデンス(Real World Evidence)とは
リアルワールドデータと良く似た名前で、リアルワールドエビデンスという言葉がありますが、こちらはリアルワールドデータを解析して得られた科学的根拠(エビデンス)のことを指します。
リアルワールドデータのメリットは?
リアルワールドデータを活用するメリットには、以下のようなものがあります
実臨床での治療や患者行動を把握できる 予め目的を決めて前向きにデータを取得する臨床試験(非リアルワールドデータ)とは異なり、実臨床での治療や患者行動を把握することができます。医薬品の安全対策の向上や最適な治療方法の分析、薬剤の処方実態や市場の把握に適しています。RCTとリアルワールドデータを組み合わせることにより、新たなアプローチやエビデンスの構築にも役立ちます。
データサイズが大きい 多様な背景をもつ多数の患者集団を対象にした、日常の実臨床からデータを集めるため、データのサイズが非常に大きく、RCTでは得られない大量のサンプル数を確保することができます。
低コストかつスピーディな調査が可能 データ収集をあらかじめ行うことで、RCTと比較し低コストかつスピーディに運用することができます。
リアルワールドデータを扱う際の注意点
リアルワールドデータを扱う際の注意点には、以下のようなものがあります
選択バイアス 非リアルワールドデータと比較すると、不特定多数の集団から集められたデータのため、集団としては不均一です。「基準を満たした症例を持つ患者・集団」ではなく、特定の有効性や安全性を検証することが目的で集められ治験実施の際に守るべきルールである「GCP」、実施計画書および各種ガイドラインに沿った対象・手法でデータを収集している訳ではありません。
データ項目の限界 実際の診療の基づくデータであり、研究用に収集されたものではないため、レセプト病名の正確性や全ての診療行為が記録されているわけではなかったり、研究に含めたい検査値や画像のデータが含まれていないなど、データ項目に制限があることが多いです。
データ解析人材 多様なデータを大規模に収集できる環境は整備されつつありますが、ある程度のデータへの知見、業界構造の理解が必要であり収集されたデータの利活用を推進する人材は不足していると言われております。
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